演劇:ホチキス 月刊小玉久仁子7月号「げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」

小玉久仁子の一人芝居。四つの短編。
器用な体の動きとくるくる変わる表情で、一人でもドタバタ劇が成立。同時に、声に余裕があり、立ち姿が凛としていて美しいので、芝居のトーンは全体的に落ち着いていて、安心感がある。それからとにかく、手に表情があって綺麗。絵描きである彼女の能力を生かした「人相書き」は彼女が筆を走らせるところを見るだけでも楽しい。

 

  「久仁子」という名前の由来を語るところから始まる「彼女の長い経歴」では、一人の女性の経歴を五代前まで遡って演じている。六人の女 性と時代を即座に演じ分ける瞬発力と、全ての女性のバックボーンを感じさせる演技力が客席の空気をめまぐるしく変えていく。更に「一人芝居」という手法が、一人の人間の中にある「孤独」と「繋がり」を際立たせていた。舞台の上に一人きりで立つ小玉は、人間がどうしようもなく孤独である事を感じさせたし、その一方で「久仁子」に繋がる五人の女性は確実に彼女の中に存在しており、その繋がりが、彼女を決して「独りきり」にはしておかない。

 終盤、久仁子の母が自身の母親(久仁子にとっては祖母)に、これから産まれてくるであろう久仁子の話をする。それは決して特別な風景ではない。母親が娘とそ の子供の事を心配し、娘は産まれ来る我が子への愛を、娘の立場で(時に母の顔をしながら)語る。日常に組み込まれたどこにでもありそうな風景。しかし、その風景のなんと優しい事か。こんなにも愛おしい光景なのか、とハッとさせられる。そして、自分自身が産まれている以上、このようなシーンは過去にあったの かもしれず、あり得ない事だが、いつか見た景色のような懐かしさを感じた。産まれてくる娘の存在自体を言祝ぐ小玉の表情は優しく、希望に満ちており、母としてのその表情は、産まれ来る命に対する、無条件の祝福であった。

 オムニバスのラストを飾ったのは「スーパーお母さん」。あり得ない設定のドタバタコメディで、シリアスな印象の残った「彼女の長い経歴」のあと、客席は再び笑いに包まれた。小玉のセリフ回しが軽快で、観た後は爽快な気分に。

全体で1時間強・2000円と気軽な公演なので普段演劇を見ない人にもお勧めだと思う。
7月7日(明日……もはや今日)だけど。
新宿サニーサイドシアターにて。
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