漫画：九井諒子『竜のかわいい七つの子』

「竜の学校は山の上」が話題になった、九井さんの新作短編集。
「七つの子」というだけあって、全部で7つの話が収められています。現実の中にするりととけ込むファンタジー、という手法が本当に巧み。

全体の構成も読みやすく、まずは典型的な西洋ファンタジーで幕を開け（第一話『竜の小塔』）、泣いたり考えさせられたりしみじみしたりしながら、最後はどたばたコメディで幕（最終話『犬谷家の人々』）。

　登場人物として、竜、人魚、神様、狼男に超能力者、を扱いながら、描く世界は私たちが住む日常に近い話、もしくは今住むこの世界とシンクロしており、設定を含む話の背景には緻密な世界観が垣間見えてとにかく厭きない。

絵としての書き込みが多い、というのではないが、話自体に余白と、（書かれない）書き込みが多いのだ。

突飛な設定には決して頼らず、物語の芯は、あくまで登場人物同士の関係や世界の考察にあるので、生粋のファンタジーでありながらとても近しく、そしてリアリティを感じる。

　中でも、私が好きなのは、「狼症候群」という難病を抱える青年と、その母親との関係を書いた『狼は嘘をつかない』。息子の病気をテーマにしたエッセイ漫画を描く母親と、それによって生まれる親子の確執、そして病気の息子と、病気を支える母の、それぞれの、それぞれにしかない葛藤を平等にあぶり出している。何より、手法が斬新！

　もう一つ、『金なし白禄』は、最終ページ、最後のコマ運びには唸ってしまった。絵も素敵で、カバーは開いて飾っておきたいくらい。（ここで、コレクターなら保存用にもう一冊買うのであろう……！）帯までかわいくてね。帯、大事にとっておこう、とカバーの下にはさむべくカバーをとったら、嬉しいおまけが！一度、取ってみた方がいいよ。カバー。

九井諒子作品集竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)